南淵先生の著書 『ナースのちから(第2版)』

南淵先生の著書『ナースのちから』は、第1版が、CABG手術編という副題がついている冠状動脈バイパス手術がメインの内容だったが、昨年発行された第2版は新たに弁膜症手術の内容が加えられた。



弁膜症手術については、大動脈弁狭窄症(AS)と大動脈弁閉鎖不全症(AR)に対して行われる大動脈弁置換術(AVR)、そして私が受けた僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する僧帽弁形成術(MVP)の実際の術式や術後管理について詳しい説明がある。手術が適応となる客観的検査数値、弁のどこをどのように切って、縫うのか、術後に起こりうる突然の急変や不整脈についてなど、とても興味深い。術後の管理については、バイパス手術でも弁膜症手術でも、同じ心臓手術なので違いは少なそうだ。

『単元や用語を孫引きして活用していただくような本ではない、というイメージです。理系というより文系的な本、解説書というより物語風な内容だ、とご理解ください。』と冒頭に南淵先生が書かれている。心臓外科医が看護師向けに書いた本であるが、医学の専門書的な雰囲気はあまり感じられない。豊富なイラストやマンガは茂木保先生によるもの。ユーモアたっぷりでこれが実に面白い。また心臓や手術中の写真があり、世の中で起こった実際の医療ミスや訴訟などのエピソード、南淵先生自身が手術室で経験されたヒヤっとした場面の描写なども、医学知識の無い、我々(元)患者にも、容易に理解できる内容だ。患者にとって細かい薬の名前や検査の内容などは分からなくても良い。医者や看護師が、患者のどこをどのように診て、判断し、患者への対応を行っているのかが分かるのが、答えを見ながら問題集を説いている学生のような感じで面白い。

既に心臓手術を経験した患者なら、当時、患者である自分を周りの医者や看護師がとってくれた対応の意味を、客観的に思い返すことができるかもしれない。P.200 「いっちゃってる!ICUシンドローム」は、経験された方も多いと思うICUで味わうあの特殊な感覚が何なのか、またその対処方法を医学的に説明してある。ちなみに、ICUシンドロームって、男性にしか見られないそうです。P.213の漫画、ナブチ先生っぽくって笑えますね。P94.心停止の方法。こうやって心臓って止めるのかぁ。 P.31 大動脈弁が正常に三枚ある人が大動脈弁狭窄症になる確率は0.4%なのに、二尖弁の人は50%の確率で大動脈弁狭窄症になると言われているとか・・・

手術はうまくいったはずなのに、術後ICUで、突然原因不明の出血が発生することがあるそうだ。患者を手術室に戻して、再開胸するのか、このまま様子を見るのか。再開胸の判断を巡っての、医療人の心理や精神状態の説明はなるほどそういうこともあるのだなぁと思わせる。そして、それ故、如何に自分自身が信頼できる病院や医者選びが重要かを、この点からも改めて認めることができる。

『ナースのちから』は第1版も持っているので、見比べると、今回の第2版には「あとがき」も追加されてページ数も30頁程増えている。

心臓手術を受けられた方で、心臓手術に関する医学的なことを少しは理解したいという方にはご一読をお勧めしたい。自分は典型的な文系思考だという方でも、問題なく楽しく読んでもらえるのではないかと思う。

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書籍寄贈のご案内  「闇にあっても光を」 関 茂子

以前、こちらの記事でお勧めの心臓病関連書籍として 『闇にあっても光を』 関 茂子を紹介した。そしてこの本が、私同様、多くの(元)心臓病仲間の心に響いた証拠となるコメントを沢山頂いた。

この本は、1973年に初版発行、74年に第二刷が出された後、長らく絶版になっていた。病気で苦しんでいる方や、キリスト教の信仰心のある方にも、この闘病記を沢山読んでもらいたいと願い、関 茂子さんの甥にあたる吉本さんが2014年に再出版された本である。

この度、その吉本さんのご厚意で本の寄贈の申し入れがありました。30冊受贈し現在私の手元にあります。つきましては、心臓病を患っていたり、心臓手術を既に経験された方やそのご家族で、この本を読んでみたいと思われる方にお送りしたいと思います。

ご希望の方は、カムバックハートこと鍋島までメールで、本の発送先のご住所、お名前を記してご連絡ください。初めてコンタクト下さる方はご自身の簡単なプロフィールも添えて下さると幸いです。沢山の方に読んで頂きたいのでご遠慮なくお申し出頂ければと思います。(←在庫分の配布完了しました。)



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「闇にあっても光を」 関 茂子

心臓病掲示板「たけしの部屋」にお勧めですと投稿者の方が紹介されていた本です。この度、著者のご親族様から、多くの心臓病関係の方に読んで頂きたいと本の寄贈を受けました。ご希望の方にお送りいたします。詳細はこちらの記事をご参照ください。 (2016.1.25 カムバックハート)

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「闇にあっても光を」 関 茂子著

私がまだ生まれる前、昭和39年に弁膜症が原因で僅か27歳という年齢で亡くなられた女性の体験記という内容を知り、気になって早速購入した。1973年に初版が発行されたがそれは絶版。関さんのご親類の方が多くの方にこの闘病記を読んでもらいたいとのことで昨年暮れに再出版された。

関茂子さん。幼少期の扁桃腺炎、リウマチ熱が原因で僧帽弁の弁膜症を発症。症状に苦しみながらも学校に通うが、入退院を繰り返し、27歳で亡くなってしまう。ご本人の弁膜症に患われた生活の様子や精神面の描写。ご家族や医者の対応。そんな状況でも徹底して軸から振れることなく自分の信念を通し続けている。弱さを見せる言葉を吐きながらも、実はキリスト教への信仰によって常に強靭な精神力を持ち続けている、そんな内容だ。

「病人がもう少し正しい医学知識を知っていたら、病気の治りも早いに違いない」
「私と同じ病と同じ苦しみを持つ人々、かっての私のあがきを再現するように、医学への知識の欠如と焦りがあり、信頼出来る医者を血まなこになって探していた。私はしばし医者?となって、これらの友の悩みを考え、祈った」と書かれている部分が特に印象に残った。

心臓手術を医者から勧められる場面もあるが、結局手術を受ける方向に話は進まない。当時の心臓手術は、治る可能性よりもリスクの方がはるかに高い賭けそのもの。弁膜症を心臓手術で治せるようになったのはここ数十年の話。人類の歴史の中で言えば、ほんのついさっき手術で治せるようになったばかりだ。

現在の一般的な弁膜症の治療方針は、逆流の度合いがある程度まで進行したら心臓が弱ったり合併症が発症する前に早めに心臓手術で治してしまう方向だと思う。では、手術を受けずに弁膜症が進行すると一体人の身体はどうなるのか。

関さんの場合は、下痢、嘔吐、頭痛、むくみ、胸の圧迫感、発熱、不整脈、血圧異常など、あらゆる苦痛の症状が周期的に発生し入退院を繰り返されたようだ。最後は脳梗塞で亡くなられている。今から思えば、術前の私の場合も、体の不具合や違和感が周期的にやってくるのを経験している。

毎日食事がとれる、仕事ができる、本が読める、地に足をつけて歩くことができる、太陽の光を浴びることができる、話をすることができる、手紙や日記を書くことができる、音楽を聴くことができる、パソコンやスマホを操作することができる、電車やバスで移動することができる・・・それら当たり前のようなことが考えようによってはなんとありがたいことなのか・・・

この本の帯や所々に関さんのモノクロ写真が載っている。肌に艶があり陽気で健康そうな普通のお嬢さんだ。本に書いてあるような病気に苦しんでいる人のようにはとても見えない。心臓弁膜症とは各自が内部に抱え込む疾患であり、それと闘っている現場は、身体の表面には現れず周囲からはなかなか理解してもらえないものかもしれない。

この本には心臓病に関係する方には何かしら思いを抱かせるものがあると思う。よくぞ再出版してくれたと感謝したい。興味持たれた方は是非読んでみてください。 「闇にあっても光を」 関 茂子著



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朧八大接心と心臓手術

京都の有名な金閣寺や銀閣寺などの住職の有馬頼底さんの書かれた「雑巾がけ」から始まる 禅が教えるほんものの生活力という本を読んでいたら、心臓手術を受けることと通じるものがあるなあと感じられた頁があったので紹介したいと思う。

禅寺のことについては全く無知な私ですが、この本には次のようなことが書かれています。
「禅寺で毎年12月1日から8日にかけて行われる大変厳しい修行に「朧八大接心(ろうはつおおぜつしん)」というものがある。その昔、お釈迦さまが悟りを開いたのは、1週間を一つの単位として座禅を続け、それを7回繰り返した49日目で、それが12月8日であったとのこと。よって、この期間、朝の3時から夜中の12時までほとんど不眠不休でひらすら座禅を繰り返すことで、お釈迦さまの悟りにあやかる。ただひたすら座りこもりきりで1週間を終えて外に出ると、世界が新鮮に輝いて見える。生まれ変わったように、目に入る全てのものが新鮮に映る。周囲は何も変わっていないのに、自分自身の感じ取る力に変化が起きる。そうして、普段の自分が如何に物事を見ているようで実は見ていなかったかに、改めて気づく。ぎりぎりのところまで自分を追い込むことによって、人間本来の力や感覚を研ぎ澄まし、取り戻す」

心臓手術を受けることを決心して、入院して手術を受けリハビリをこなして退院に至る。合併症を併発せずに順調な方であれば術後10日ほどで退院できる。退院後の周りの見え方、ものの感じ方は術前のそれとは大きく異なるのを経験している訳だが、ひょっとして丸1週間ひたすら座禅を繰り返す禅の朧八大接心を終えた時の感覚と心臓手術を終えた時の感覚には近いものがあるのではないかと思った次第である。

この本に書かれていることは、上記以外の部分でも今の自分、今後の自分の生き方の参考になる文章が多かった。もし機会があればお手にして読んで頂ければと思う。

有馬頼底 「雑巾がけ」から始まる 禅が教えるほんものの生活力

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たかしげさんの感想文

たかしげさんから届きました「一途一心 命をつなぐ」の感想文です。

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    「一途一心 命をつなぐ」 を読んで        天野 篤 教授 著

 天皇陛下の冠動脈バイパス手術予定と内容のTV見ていた。高齢であり同年齢であるが手術内容は大きく違っていた。オフポンプ手術では心臓が緩やかだが脈動しているので手元が狂うだろう。冠動脈は太い血管で約4㎜と聞く、ここにグラフト血管(細いバイパス血管)を縫いつける。縫い目が粗く不完全だと体内に出血して命とりになりかねない。執刀医は精神統一と手先の器用さが勝負で匠職人のように精緻なスキルを備えていなければならない。ここに一途一心の精神統一が必要なのだろう。

自分の手術が成功し二年が経過して「一途一心 命をつなぐ」を求め夢中で読んだ。
この本には天皇陛下の手術の内容はほとんど記述されてない。教授の謙虚さがうかがえる。総じて平易な文章で読み易く気負う個所は見当たらない。随所に命をつなぐ心意気が感じられた。オフポンプでもいくら時間がかかろうとも治さなければ死に結び付く。胸を閉じ縫合して終わりでなく、平常の行動ができるよう回復しなければ本当の成功、治癒とは云えない。この覚悟に胸を打たれる。術中予期せぬ患部の異常に突きあたる。その難題を即座に判断してスタッフに指示し処置する素早いレスポンスと心構えや能力に神技を感じる。術中にチームスタッフが才知とスキルを結集したチームワークの大切さを知った。自分の手術中の無の世界がこの本で補われた感がする。
病院内の具体的な改革までも気を遣われている。後に続く若い医師に厳しく育てることで伝承する義務感で腐心している情熱が伝わってきた。

視点を置き換えると他の分野でも見倣うべき教訓と思う。ものつくりの分野で戦後日本の発展を担ってきた基幹産業では石油精製・石油化学・発電・原子力・新幹線etc.がある。これらのプラントは目的やものを造り出すために命があるが如き脈動し、活動している。プラント配管内は血液のように流体が流れ、バルブは開閉し制御され、ポンプは動き、電気は流れ、神経のように計装機器は作動している。命ある身体のようだ。
命ある身体のようなプラントを設計・製造し据え付け稼働させる技術。運転・管理さらに保守・点検と一連の作業のエンジニアリングスキル。そしてこれらに携わる技術者を育成、伝承することは医術の分野と酷似している。
この分野でも著書題名を「一途一心 命を造る」に置き換えても過言ではないだろう。
「一途一心命をつなぐ」には仕事論、リーダー論までもが熱い思いで語られている。
プラント技術者のバイブルとしても一読に値する良書と思いちょっと堅い読後感だが感服した。  了     

        たかしげ 2013-3-19

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プロフィール & メール

Author: カムバックハート

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カムバックハートこと、鍋島と申します。神奈川県川崎市在住の48歳男性。

2008年12月に僧帽弁形成手術を受けて、第二の人生をスタートさせることができました。

南淵先生と私

南淵先生と私(術後の初外来にて)

フィルムで写真を撮るのが趣味です。(元)心臓病仲間のポートレート写真展の開催に向けて準備中です。詳細はこちらの記事。「創と私」「術前 vs 術後比較ポートレート」「病気を支えた家族と(元)患者のツーショット」「笑顔の(元)心臓病仲間のポートレート」のテーマで作品制作中です。これから心臓手術を受けるかもしれない人達に元気になる期待と勇気を与えたいと思っています。

心臓病仲間の輪に入りたい方や、ブログについてのご質問、お問い合わせのメールはお気軽にこちらへ どうぞ。但し、私は医者ではないので医学的なご質問にはお答えできません。初めての方は簡単なプロフィールをお願い致します。

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ブログ開設: 2008年12月
お知らせ
南淵明宏先生の公式サイトにある「勇患列伝」 その7に出てくる「平松」とは私のことです。

yomiDr.のサイトにある世相にメス 心臓外科医・南淵明宏ブログ にこのブログのことを書いて頂きました。こちらの記事には第三回(元)心臓病仲間の集まりについて書いて頂きました。

このブログは、私が弁膜症の僧帽弁閉鎖不全症という病気に診断されたところから、入院、手術、退院、その後の生活という流れで時系列に記載しています。2008年12月当時の状況ですので、その後の医学の進歩で内容的に古くなっている部分があるかもしれません。実際の患者にしか分からない心理的な面の記述をできるだけ表現したつもりです。最初から読まれる場合は、「★はじまり ~こちらからご覧下さい~

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