鼠径(そけい)ヘルニア手術体験記 その1

心臓手術とは関係ないのだが、この度、鼠径(そけい)ヘルニア手術を受けることになってしまった。足の付け根部分から腸が飛び出してくる病気。いわゆる、脱腸。40代以降の男性に多いらしい。まさにドンピシャ。病気は突然やってくる理不尽で不公平なもの。それはもう十分理解している。だったらその治療さえも楽しむしかない。治療に向けての準備、手術から回復の過程や心境を心臓手術の体験にも絡めて記したいと思う。

2012.10.19
左足の付け根部分にプクっとした卵大の膨らみを発見したのは、夜、お風呂に入る前の脱衣場でのこと。まさに「なんだ、こりゃ!」状態。湯船で、手で膨らんでいる部分をゆっくり押すとへっ込んだ。気のせいかと思ったが、立ち上がるとやはり間違いなく大きな膨らみがある。

2012.10.20
翌朝、川崎幸クリニックへ電話してアポを取る。受付に症状を伝えるが、該当の診療科が分からないとのことでまずは皮膚科で診てもらうことに。1時間後にはクリニックのソファに座っていた。皮膚科の先生が患部を見た瞬間、「これはヘルニアですね」と一発診断。直ぐに外科にカルテが回される。数十分後、外科の外来診察を受け、鼠径(そけい)ヘルニアの診断確定。治すには手術が必要な旨、伝えられる。その日は腹部CT検査を受けて帰宅。迅速な検査と診断の流れであった。

手術適応と宣言されたが、心臓手術の時と違って全く不安はない。唯一考えたのは、どこの病院で手術を受けるべきなのかという点。これは心臓手術を受ける時にそれなりに悩んで決めたプロセスが思い出されたもの。インターネットで調べると、案の定、沢山の情報サイトが現れる。情報があり過ぎて焦点が定まらないのも問題だと思った。

あまり悩んでも仕方ない。結果的に川崎幸クリニック系列の川崎幸病院で手術を受ける方向で良いと判断した。

2012.11.2
腹部エコー。時間は僅かに5分程で終了。心エコーはいつも15分程時間がかかるのでとてもあっけなかった。その後、外来診察。執刀医はどの先生になるのか尋ねたが、その時点ではまだどの医者が執刀するのか決定していないとの返事であった。だが、結果的にこの時の診察医が執刀医であった。そこで一泊二日の開腹手術を受けることで決定。鼠径(そけい)ヘルニアの手術は腹腔鏡を用いた場合、通常日帰りでも実施可能なようだ。私の場合は、過去に心臓手術を受けた経緯があることとバイアスピリンを飲んでいることが理由で開腹術をお勧めしますとのことであった。麻酔から完全に覚めたのを確認して手術の翌日退院というスケジュールになった。

術前検査、診察と手術の日程を決める。その日は、診察後、採血と採尿。

<日程>
10月19日 足の付け根に膨らみがある異常に気付く
10月20日 初診、腹部CT
11月2日  腹部エコー、採血、採尿、診察
11月5日  東京ハートセンター、南淵先生の外来
11月7日  胸部、腹部レントゲン、心エコー、診察
11月8日  麻酔科医との面談
11月15日 その日一番の手術
11月16日 退院予定

日程が決まり安心したのか、帰りに川崎の焼き鳥屋で久しぶりにアルコールを少し多目に飲む。

普段、バイアスピリンを毎日飲んでいる。南淵先生は、これはただの予防の為に処方しているだけだと仰っている。今回の鼠径(そけい)ヘルニアの手術を受けるにあたって、血液の凝固を妨げるバイアスピリンの服用を術前1週間止めて良いか心臓の病院に確認して下さいと言われた。「全然大丈夫だと思いますよ」と患者である私が医者に伝えるが、やはり一筆もらってきて欲しいようだ。

話は変わるが、最近読んだ小説の記述によると、竪穴式住居に住んでいた縄文時代の人の平均寿命は僅かに14~15才程度だったそうだ。乳児の死亡率が桁違いに高いことも平均値を下げている要因のようだ。20歳を無事に超えたら、集落の長老のような存在だったのかもしれない。今日の医療でこうしたかつては治せなかった病気も治せることで人類の寿命は伸びてきた一面がある。南淵先生の講演で、身近な細菌を洗い流す石鹸の発明が人類の寿命を大きく伸ばしたとも仰っていた。

弁膜症になって手術を受けるという選択肢がなければいつか心臓の機能が止まって死んでしまう。若しくはそれまでに別の病気や老衰で亡くなるのかもしれない。

今回私が患った鼠径(そけい)ヘルニアでも、治療せずに放っておくと、ヘルニア部を押しても体内に凹まなくなり、いずれ腸が正常に機能しなくなり、カントン(嵌頓)という危険な状態になるらしい。早めの手術が望ましいようだ。

2012.11.5
朝、8時半過ぎに東京ハートセンターの受付に電話。当日午後の南淵先生の外来アポを取得。突然のアポ取りにも小回りが効くこの心臓病専門病院の対応はありがたい。その日の外来患者は少なかった。予想通り、南淵先生はバイアスピリンを止めることは全く持って問題ないとの御説明。術前に南淵先生と深津さんのお顔を見ることができたのが一番嬉しかった。



診療情報提供書と前回の外来で受けた心エコーの検査結果を相手先の病院宛に頂いた。普通は封印された封筒に入った紹介状や情報提供書を患者が別の病院に運んで届けるのだが、誰だってこっそり封を開けて中身を読みたくなるのが心情。なぜならそこには自分の体についての情報が書かれているのだから。それを分かってか南淵先生はいつも病院間でやりとりする文書の類の内容を患者に確認させてくれ、患者用のコピーまで手渡してくれる。

暫くパソコンのキーボードをタタタッと叩いた後、プリントアウト。「これでいい?」と見せてくれた診療情報提供書に書かれた文章を診察室の中で読んだ時は、ユーモアが盛り込まれた南淵先生らしい文章だなとだけ思った。しかし、家に帰って再読して気持ちが変わった。ユーモアはもちろんだが、これを受け取ったヘルニアを手術する側の医者は、きっとこの患者の手術は気合をいれて絶対成功させなくてはいけないなと感じるような文章であるということに気付いた。ヘルニア手術する医者が患者の心臓のことを理由に下手な言い訳ができないプレッシャー状況に置いてくれた訳だ。これは南淵先生が自ら心臓手術を施した患者に対する最高のエールではなかろうか。南淵先生らしさが実に伝わってくるこの文章をブログで紹介しない訳にはいかない。

「4年前に当方で僧帽弁形成術を行い、経過良好です。僧帽弁の逆流は一切なく、また総じて心機能は良好です。この度貴殿のもとで腹部外科及至は鼠径部の手術治療が必要な状況と相成ったとのことですが、どのような外科手術においても鍋島氏の心臓機能には何ら支障はない事をここに明言させていただきます。また、現在の投薬は予防的な、いわばどうでもいい薬剤であるので、いかようにでもし休薬していただいて結構です。なにとぞよろしく御高診のほどお願いします。」



南淵先生の外来の翌日から薬を全部休薬。最初は、心臓の鼓動が強く感じられる感じがあったけど、3日目くらいからそれもなくなり、薬フリーの生活も体が軽やかでいいなと思った。(が、実際は高血圧になっていた。)

2012.11.7
心エコー、胸部、腹部レントゲン、肺活量の検査、心電図検査。心エコーは二人がかりで30分近くやっていた。結果は心機能は正常範囲内との診断。検査結果の詳細をプリントアウトしてもらう。診察結果を患者が要求したら躊躇なくコピーをくれる病院は安心できる。

2年程前、南淵先生が退職された直後の大和成和病院の検査診察で僧帽弁に2度の逆流を指摘され、「将来的に逆流が増えれば再手術ですね」とその時診て頂いた外科医に言われた。その後の東京ハートセンターでの心エコー検査でも確かに僧帽弁2度(Mild)の逆流状況。それでも南淵先生はこんな程度の逆流は僕にでもありますから全く問題なしとのいつものお言葉。それが、前回の東京ハートセンターでの心エコー検査では1度(Trivial)になっていた。2度から1度に下がった訳だ。そして、今回別の医療機関での心エコー検査でも1度(Slight)の検査結果。複数の病院で逆流1度の判断だったので検査結果への信頼感は増す。その日の体調や精神状態によってこの程度の検査結果はひょっとしたら微妙に変化するのかもしれない。逆流の度合いをレベル0~4の5段階で分けるそのボーダーラインでの判断も技師の気分次第なのかもしれない。逆流3度や4度が自然に1度に戻ることはないのかもしれないが、多少の逆流は気にする必要なしと実感。高気密のマンションではなくて、多少の隙間風も吹く日本家屋に住んでいるようなもの。その方が、湿気も防げて家が長持ちするかもね。ちょっと違うか・・・


(左が川崎の病院での心エコー検査結果。右が東京ハートセンターでの心エコー検査結果。)

ヘルニアの診察中、恐らく学生の頃は少しヤンキーやってたんじゃないかなと思わせる雰囲気の明るい性格の看護師さんが、「この患者さんバイアスピリン飲んでますよ~」と今日の外来のお偉そうな先生に耳打ち。先生曰く、「んっ?バイアスピリン?大丈夫だよ、○○を使うから、全然問題ないよ」とのこと。この言葉を聞いた時に、この医療機関で手術を受けることに大きな信頼感を得た。

世の中には、ワーファリンを飲んでいる患者には歯の治療をためらう歯科医が沢山いると聞いたことがある。「そんな歯医者の治療を受けるのは止めて、別の医者を探しなさい。ちゃんと治療できる医者が必ずいますから」と確か南淵先生のどれかの本に書いてあった。

患者がバイアスピリンごときの薬を飲んでいるだけで、外科の手術をためらうような外科医しかいない病院での手術は止めておきなさいということかもしれない。

私の手術の執刀医がどの医者になるのかは、残念ながら手術直前の会議まで決まらないようだ。逆に「希望の執刀医はいますか?」と聞かれたが、個人名が出てこなかったので「ヘルニアの執刀件数の多い先生にお願いします」とだけ伝える。ヘルニアの手術はチームで年間100件以上やっているから御心配なくとのこと。チームという言葉には実は少し引っかかる。責任逃れっぽいニュアンスを私は感じてしまうから。執刀医個人の技術と責任感を信頼したいのが患者なのだ。手術予定表には様々な消化器系外科手術が一日3件ほどづつ予定されていた。確かに毎日これだけ何かしらの外科手術していれば大丈夫かと思った。心臓手術を受けるなら、執刀医が誰だか分からずには絶対手術を受けないだろう。まともに心臓手術をできる心臓外科医は今、全国に30人程しかいないらしい。心臓手術のリスクは一般消化器系手術の6000倍もあると南淵先生がどこかで書いていた。ということは、今回私が受ける手術のリスクは心臓手術に比べたら6000分の1以下?

2012.11.8
最近、腹がキューと痛くなったりムカムカすることがある。特に長時間立っていると辛い。暫く前からそのような症状があったが、まさか今回の病気がその原因だとは思ってもいなかった。

夕方、麻酔科医と面談。全然問題なし。心臓手術に比べたら全身麻酔とは言ってもかなり楽そうだ。「気管内挿管はしますか?」という質問に対して「するかもしれないし、しないかもしれない」という曖昧な答え。状況次第なのだろう。手術は全身麻酔で1時間半から2時間くらいらしい。手術室の中で麻酔から覚めるそうだ。

南淵先生のホームページにある「勇患列伝」。その中のその1に書いてある鏑木(かぶらぎ)隆久さんのケースを再読した。勇気が湧いてくる。あまりにも強くて強すぎる患者、あの人の強さを思い出したらこんな手術くらい自分一人で乗り越えなくてはと気が引き締まる。

2012.11.14
手術前日。会社の仕事を手際良く片づけて、残りは上司と仲間に託す。
18時頃、夕食。暖かいほうとう。お腹に残りにくい食事にした。入院準備は完了。

手術当日以降の状況は続きで・・・

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お疲れ様

お疲れ様です。

いよいよ明日退院ですか。よかったです。
毎回ブログの内容が今後自分が手術を行うような事があった時の参考になります。

自分も昨日は南淵チルドレン4名とリハビリの先生と5名でカムバックハート飲んべいを定期検査後に開催!!
昨日は新しい大和時代の南淵チルドレンが加わりました。

次回も飲みましょう!!

ありがとうございます。

遠藤さん、コメントをありがとうございます。

退院は手術翌日の朝でした。あっけない一泊二日の小旅行でした。
でも、得たものが多かったです。その辺りは2回分のブログ記事に漏れなく
書いたつもりです。

外来後の小集まり、行きたかったなぁ。。。次回は楽しみにしています。
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Author: カムバックハート

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カムバックハートこと、鍋島と申します。神奈川県川崎市在住の48歳男性。

2008年12月に僧帽弁形成手術を受けて、第二の人生をスタートさせることができました。

南淵先生と私

南淵先生と私(術後の初外来にて)

フィルムで写真を撮るのが趣味です。(元)心臓病仲間のポートレート写真展の開催に向けて準備中です。詳細はこちらの記事。「創と私」「術前 vs 術後比較ポートレート」「病気を支えた家族と(元)患者のツーショット」「笑顔の(元)心臓病仲間のポートレート」のテーマで作品制作中です。これから心臓手術を受けるかもしれない人達に元気になる期待と勇気を与えたいと思っています。

心臓病仲間の輪に入りたい方や、ブログについてのご質問、お問い合わせのメールはお気軽にこちらへ どうぞ。但し、私は医者ではないので医学的なご質問にはお答えできません。初めての方は簡単なプロフィールをお願い致します。

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ブログ開設: 2008年12月
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南淵明宏先生の公式サイトにある「勇患列伝」 その7に出てくる「平松」とは私のことです。

yomiDr.のサイトにある世相にメス 心臓外科医・南淵明宏ブログ にこのブログのことを書いて頂きました。こちらの記事には第三回(元)心臓病仲間の集まりについて書いて頂きました。

このブログは、私が弁膜症の僧帽弁閉鎖不全症という病気に診断されたところから、入院、手術、退院、その後の生活という流れで時系列に記載しています。2008年12月当時の状況ですので、その後の医学の進歩で内容的に古くなっている部分があるかもしれません。実際の患者にしか分からない心理的な面の記述をできるだけ表現したつもりです。最初から読まれる場合は、「★はじまり ~こちらからご覧下さい~

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