心臓手術と鼠径ヘルニア手術の比較

私はこれまでに2度の外科手術を受けた。2008年12月に心臓弁膜症手術(僧帽弁形成術)、そして、今回、2012年11月に鼠径ヘルニア手術。鼠径ヘルニアに関わらず、心臓手術を受けたけど今度は別の手術を受けるという方は少なくない。「心臓手術を乗り越えたんだったら何の心配も要らないよ!」というのが私からのアドバイスになる訳だが、折角なので心臓手術と一般外科手術という種類の異なる手術について、患者の心境や状況の比較を参考までに記してみたいと思う。

①心境
心臓手術を宣告された時の不安は、それは一言じゃ言えないくらい大きなもの。「なぜ自分が?一体この先どうなるんだ?痛いのが怖いなぁ・・・」。その不安と恐怖は、心臓手術というイベントに対する情報を得ることによって徐々に解消される。そして結果的に、「手術前日には不安はゼロ。手術当日は何か楽しいことが起こるのではないかというワクワクした気持ちで手術室に向かうことができる」というのが、私自身を含めてこのブログを通じて知り合った(元)心臓病仲間の多くから聞いてきた心境だ。
その経験が先にあったからなのか、鼠径ヘルニア手術を宣告された時に不安は一切なかった。外科手術はどの執刀医でも同じ結果を出せるデジタル作業ではなくて、職人技が反映されるアナログ作業だということは分かっていたので、誰に執刀してもらうべきかという点のみが考慮すべき点であった。信頼する病院が決まった後は、一切の不安はゼロ。鼠径ヘルニアと診断されてから腹の違和感が徐々に強くなりはじめていたので、早く治してすっきりしたいという気持ちが強かった。

②リスク
「心臓手術は一般消化器系外科手術の6000倍のリスクがある」と南淵先生がどこかで書かれていた記憶がある。心臓手術を受ける際にリスクがあることは十分認識していた。死生観も感じたはずだ。かといって、何も準備することはできなかったのだが。結局患者本人にとってのリスクは0%か100%のどちらしかない。賭けのようなもの。これを両手術で比較するのはちょっと難しい・・・

③麻酔
心臓手術の時は、病室で手術開始1時間前に筋肉注射を打つ。だんだんと気分が落ち着き良い気持ちになってくる。ストレッチャーに寝た状態で手術室へ入場する。点滴から麻酔導入されたのか、筋肉注射が効いてきたのか分からないがマスクを顔にかけられる前に眠りについてしまった。
ヘルニア手術の時は、手術開始直前に点滴。点滴を持って立って歩いて手術室へ入場。手術台に寝て、麻酔のマスクを顔にかけられて、気体状の麻酔で眠りの世界へ・・・

どちらも全身麻酔適応であった。心臓手術の際の麻酔時間は、約7時間(手術時間は3時間25分)、鼠径ヘルニアの麻酔時間は2時間9分(手術時間1時間36分)。前者は気管内挿管を行い人工呼吸を行っているが、後者は気管内挿管は行っていなかった。麻酔の種類も別物だと思うが、覚醒後、後味が良かったのは心臓手術の麻酔の方。創による術後の痛みもほとんどなかった。ヘルニア手術の方は、手術が終了すると麻酔が急に切れてくるのか、お腹のムカムカ感と創部の痛みが突然にやってくる感じがあった。

④ICUとHCU
心臓手術後、ICUに手術翌日の朝11まで滞在した。ヘルニア手術後はHCUに入り、翌日そこから一般病棟をパスして退院した。心臓手術後のICU滞在中は、酒に酔った親父気分で、優秀なICU看護師さんにケアして頂き、良い意味でのICUシンドロームなのか私にとっては居心地はまずまず良いものであった。一方、ヘルニア手術後のHCUでの滞在は、麻酔からの目覚めも早いからなのか、体の回復に精力を尽くさなくてはない気分があり想像以上に辛かった。これは、心臓手術後ICUから一般病棟(HCU)に移った頃と同じイメージだ。ICUにいる時は薬剤で体をコントロールされている面が強いから逆に辛くないものなのかもしれない。

⑤術後
心臓手術もヘルニア手術後も当初はどちらもベッドから動けず、背中や腰が痛かった。気管内挿管の影響で心臓手術が終わり覚醒して数時間の間の喉の渇きは尋常ではない。そして、医者から水を飲むことがやっと許可されて飲む水の美味しさは文章では表現不可能なくらい実に美味しい。これは経験者の誰もが唱える感想だ。ヘルニア手術の方は、気管内挿管がなかったので、術後初めて水を飲ませてもらった時には、美味しさを相当期待して口にしたにも関わらず、「あれ~、これ普通の水じゃん!」としか思わなかった。
炎症反応による発熱はどちらの場合もあった。37度半ばくらい。心臓手術後は、抗生物質でその炎症反応を抑えていたが、ヘルニア手術の際の発熱は1日で自然に消えていった。酸素飽和度はいずれも早期に回復していた。

⑥創と回復
心臓手術は、胸骨正中切開を行い、創は縦方向に21cm。たんを出したり、咳をしたり、くしゃみをすると胸骨に響き痛い。肩などに余計な力が入るので、心臓以外の部分に痛みがでる。この痛みは約1ヵ月でほぼ問題なくなり、術後約3カ月で術前以上の動きが可能になる。
ヘルニア手術は、左足の付け根部分に6.5cmの横方向への切り込み。手術翌日までは強めの筋肉痛っぽい痛みが多少あるが、それ以降は痛みはほとんどない。胸骨を切開していないので、回復は相当早い。

⑦違和感
心臓手術後は、不整脈はなかったが心拍数が早かった。それはあまり気にならなかったが、切開した胸骨の回復が最大のポイントであった。人工弁輪は弁の形成に使用されているが違和感は一切ない。術後約3カ月で胸骨も元に戻ったころには違和感らしい違和感はなく、術前よりはるかに元気で調子の良い体になっていた。
鼠径ヘルニア手術では、メッシュシートが筋肉の補強として埋め込まれている。術後数日では異物が貼り付いている感覚があるが、日毎にその違和感は薄れつつある。筋肉組織と一体化すれば違和感は無くなってしまうと言われている。

⑧再手術
どちらもやはり受けたくない!ただ、もしそういうことになっても、理不尽な病気様と前向きにつきあっていける自信はある、と思う。

⑨達成感
それはエンドルフィン出まくりで、どちらの達成感も大きい!それなりのプロセスを経て、健康体とリスクを天秤にかけて治療を終えた訳なのだから。病院、執刀医、手術室スタッフの皆さん、看護師さん、検査技師の皆さん、受付の皆さん、それから周りで心配してくれた方々に対する感謝の気持ちは強く湧き上がる。

⑩ドラマ性と患者同士の連帯感
心臓手術の周りにはなぜか幾つもドラマが生まれる。それは自分の手術の時もそうだし、知り合った(元)心臓病仲間の体験を聞いてもドラマ性を強く感じる。心臓手術は心臓という人体で唯一鼓動する臓器、生命の源とも言える神秘的な臓器を対象にした手術である。心臓手術と聞くと、「深刻な病気、命にかかわる危険、自分でなくて良かった、若しくは、自分には理解できない別の世界の出来事」と言ったイメージを人は客観的に持つことが多いのではないかと思う。そういうイメージがあるが故に、実際にそのプロセスを経験するものには強烈なドラマ性が発生する、若しくは、感情的なものが想像以上に湧き上がってきたりするのかもしれない。ブログを通じて多くの(元)心臓病患者と知り合うことができ、(元)心臓病仲間同士の連帯感はことのほか強く感じている。
鼠径ヘルニア手術は、病気の診断から手術、そして外来卒業まで1か月強の早い時間の流れの中で一連の過程が過ぎ去っていった。心臓病仲間の中にも、同じ鼠径ヘルニアを患っていますと連絡を頂いたたかしげさんや、子供の頃に鼠径ヘルニア手術を受けたというかんちゃんもいらっしゃる。今後、鼠径ヘルニアを通じて、何かしら連帯感が深まるのかどうかは未知だ。

<=PREV NEXT=>

⇒comment

Secret

私も、約10年前にそけいヘルニアの手術をしました

福岡のY.I.です。久し振りにブログを読ませていただきましたら、カムバックハートさんがそけいヘルニアを発症なさって、手術を受けられていたことを知りました。実は私も、約10年前に右足の付け根のそけいヘルニアを発症して、手術を受けたことがあったのです。ただ、私の手術と、カムバックハートさんの手術との大きな違いは、入院期間の長さです。私の場合、手術がそれほどまずかったわけではなかったのですが、手術した後、約1週間も入院させられて、全部で9日間くらいだったように記憶しております。手術を受けました後の経過は極めて順調であり、今日まで特に問題なく過ごしております。

話は変わりますが、来年2月に行われます東京ハートセンターのセミナーには参加しようと考えており、昨日既に参加の申し込みを済ませました。また、その後に開催の予定だという心臓手術経験者の集いにも再び参加させていただきたいと考えております。皆さんと又お会いできることを楽しみにしております。

おだいじに

ご無沙汰しています。

心臓に続いて二度目の手術、それほど大変ではなかったようにも読めますが、でもやっぱり手術って大変なことですよね。
鼠径ヘルニアは男性には結構ポピュラーな病気のようですね。私も気をつけなければ・・・

私は心臓が二度目の手術でして、初めての手術は50前に内痔核の手術を受けました。かなり前から手術を勧められていましたが、逃げ回ってとことん痛くなってようやく切ってくださいとお願いしました。

これから寒くなりますので無理なさらないように。

心臓以外の手術

Y.I.さんも鼠径ヘルニアの手術されてたんですね。結構、周りにいらっしゃるものですね。
2/9、再会を楽しみにしております。

豆パパさん、こんにちは。
豆パパさんも心臓以外の手術をされていましたか。
先日の新聞インタビューの件、読む機会を逃してしまいました。どのような記事
だったかとても興味あります。。。
豆パパさんは、2/9はどうですか?

回復されてるようでなによりですね。
2月9日は盛大にやりましょう♪

手術ですが、
心臓手術以前に6回の経験アリです。

どれもこれもなかなか辛い思い出。
手術直後の感覚は心臓手術が一番楽だったような気がします。
また、痛みという観点から思い出すと『左膝前十字靭帯再建術』が最悪でした。
麻酔から覚醒し、
徐々に痛みが増え高熱も。
整形手術は非常にキツイのだと実感しました。

今後、
手術という名の行為は避けたいのですが(苦笑)
プロフィール & メール

Author: カムバックハート

カムバックハートブログバナー

カムバックハートこと、鍋島と申します。神奈川県川崎市在住の48歳男性。

2008年12月に僧帽弁形成手術を受けて、第二の人生をスタートさせることができました。

南淵先生と私

南淵先生と私(術後の初外来にて)

フィルムで写真を撮るのが趣味です。(元)心臓病仲間のポートレート写真展の開催に向けて準備中です。詳細はこちらの記事。「創と私」「術前 vs 術後比較ポートレート」「病気を支えた家族と(元)患者のツーショット」「笑顔の(元)心臓病仲間のポートレート」のテーマで作品制作中です。これから心臓手術を受けるかもしれない人達に元気になる期待と勇気を与えたいと思っています。

心臓病仲間の輪に入りたい方や、ブログについてのご質問、お問い合わせのメールはお気軽にこちらへ どうぞ。但し、私は医者やカウンセラーではないので医学的なご質問にはお答えできません。初めての方は簡単なプロフィールをお願い致します。

当ブログ掲載の文章と画像の無断コピー、無断転用を禁止致します。

最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
COUNTER
ご訪問ありがとうございます:

累計訪問者数:
ブログ開設: 2008年12月
お知らせ
このブログは、私が弁膜症の僧帽弁閉鎖不全症という病気に診断されたところから、入院、手術、退院、その後の生活という流れで時系列に記載しています。2008年12月当時の状況ですので、その後の医学の進歩で内容的に古くなっている部分があるかもしれません。実際の患者にしか分からない心理的な面の記述をできるだけ表現したつもりです。最初から読まれる場合は、「★はじまり ~こちらからご覧下さい~

コルコバード


南淵明宏先生の公式サイトにある「勇患列伝」 その7に出てくる「平松」とは私のことです。

yomiDr.のサイトにある世相にメス 心臓外科医・南淵明宏ブログ にこのブログのことを書いて頂きました。こちらの記事には第三回(元)心臓病仲間の集まりについて書いて頂きました。
リンク
検索フォーム
QRコード
QRコード